東京地方裁判所 昭和31年(ワ)44号・昭31年(ワ)229号・昭31年(ワ)88号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕ところで、本件事故は、前記説示により明らかなように被告国鉄の被用者である踏切番手高橋の過失の外訴外黄及び原告相鉄の被用者である被告大沢の過失が関連共同して発生したもので、本件事故の被害者に対する関係では共同不法行為に当るから、共同不法行為者及びその使用者である原告相鉄らは被告国鉄と連帯して被害者の受けた損害を賠償すべき義務を負い、これらの賠償義務者相互間においては過失の割合に応じた負担部分があるというべきであるから、被告国鉄の前記支払をもつてすべて原告相鉄及び被告大沢の事務の管理であるとすることはできない。しかし、原告相鉄および被告大沢が共同賠償責任者として負担すべき負担部分に関する限りは、被告国鉄は、原告相鉄及び被告大沢に対する関係で支払義務がないのに、これらの者の事務を管理したものといつて妨げない。
しかして、民法七一五条の適用される場合には、被用者と使用者とは被害者に対する関係では同一の賠償責任を負うべきものと解するのが相当であるから、被告国鉄としては、予備的請求原因の検討に入るまでもなく、原告相鉄及び被告大沢に対し被告国鉄の前記各支出額のうち被告大沢の過失の割合に応じた額の償還を求め得ることとなる。<中略>
さきに述べたように、被告国鉄が本件事故の被害者に対し支出した金員について有益費償還を原告相鉄、被告大沢に求めるに当つては、その負担部分の割合を定めるについて共同不法行為者の一員でありしかも原告相鉄の被用者であつた被告大沢の過失の割合を考慮することを要する外、原告相鉄、被告国鉄及び原告松村主張の各不法行為に基く損害賠償請求においても、賠償額を定めるに当つて被害者である右各原告の過失を斟酌することになるが、その場合被害者の被用者の過失が損害発生の一因をなしているときは被害者の損害賠償請求について被用者の過失をも斟酌するのが相当であるから、次に本件事故に基く損害賠償義務者についての各過失の損害を比較検討する。
前記一、二において説示したところによると、本件事故の直接原因をなしているのは、黄の前方注意義務違反による行為であるが、その黄の過失行為の因をなしたものは踏切内において混乱を惹起することが容易に推測される状況下に漫然と大沢車を本件踏切内に乗入れた被告大沢の行為であるから同被告の過失の程度は黄のそれに劣るものではない。また踏切警手としての訴外高橋にしても黄車、大沢車のすれ違い困難による混乱が突嗟の間に発生したものではあつても、その事態に即応して発煙筒による信号方法を講じなかつた点、同人の過失を決して看過される程度のものではない。しかして、本件踏切が列車、電車の通過密度、車馬歩行者の数の夥しさに比して幅員が狭少であり、ために通過する車馬歩行者にとつて安全性に欠け、これが本件事故の一因となつていることは前記の説示から明らかなところであるが、<証拠>によると、被告国鉄と東京都知事との間に本件踏切幅員拡張工事については、東京都知事の請願によつて被告国鉄が施業し工事費用は東京都知事において負担する旨の協定があるが、被告国鉄は右踏切幅員拡張に要する敷地を管理しており自ら費用を負担するのであれば右の協定に拘らず自由に踏切の幅員拡張工事を施行し得る立場にあつたことが認められるから、被告国鉄が右踏切の幅員を拡張しなかつたこと、すなわち右踏切設置の瑕疵も軽視することはできない。
そこでこれら諸般の事情を綜合考察すると、原告相鉄の国鉄に対する損害賠償請求については金二二万円の限度で、被告国鉄の原告相鉄、被告大沢に対する損害賠償請求及び有益費償還請求についてはその合計で金一八七万円(損害賠償請求額八七万円、有益償還請求額一〇〇万円)の限度で、原告松村の原告相鉄、被告大沢及び被告国鉄に対する損害賠償請求については金二三万円の限度で認容するのが相当である。(安藤 覚 森川憲明 山口和男)